暗号通貨イーサリアムのブロックチェーンシステムが変わる?

 ビットコインをはじめとする暗号通貨のマイニングによる膨大なエネルギー消費量の環境負荷が問題になっているそうだ。

 

 マイニングとは何か。

 暗号通貨は、ネットワーク内の取引を検証するために、大量のコンピュータを用いて競いあって、検証のための計算(数学的なパズルを解く)を行う。

 そして、最も早く計算を完了させたものがブロックと呼ばれる台帳に取引を記録し、その報酬として暗号通貨を受け取れる。

 これがよく聞くブロックチェーン技術であり、この、報酬を得るために計算を行う行為をマイニングといい、この行為を行うものをマイナーという。

 マイナーが、マイニングを成功させるためには、他のマイナー(の持つコンピュータ)を計算能力で上回る必要があり、必然的にマシンパワーを競い合うことになり、それに合わせてエネルギー消費量も高まり続けているというわけである。 

 

 では、どの程度のエネルギーを消費しているのか。

 電力消費量をみてみる。ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネス・スクール(経営大学院)が発表している、『ビットコイン電力消費指数』によれば、暗号通貨の一種であるビットコインのマイニングによる年間電力使用量は95.8TWhで、これはカザフスタンやフィリピンの全体の使用量を上回るほどである。

 そして、ビットコインに次ぐイーサリアムである。イーサリアムのマイニングによる年間電力使用量は、ビットコインの1/3程度であると考えられているが、これでもニュージランドの使用量と同等レベルである。

 いずれにしても暗号通貨のマイニングにはとてつもないエネルギーを消費していることがわかる。

 

 今日は、イーサリウムにおけるエネルギー消費量削減の取り組みについて述べてみたい。

 マイニングに膨大なエネルギーを消費する理由は、前に述べたようにセキュリティを担保するためのブロックチェーン技術の性質上、マシンパワーを競い合うようになる仕掛けが内包されていることにあった。

 実は、ブロックチェーン技術にも色々な種類がある。ビットコインイーサリアムなど、多くの暗号資産のマイニングにおける検証方式はPoW(プルーフ・オブ・ワーク)型である。

 そして、イーサリアムはエネルギー消費量を削減するためにPoW型を脱却し、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)型へのシステム移行(これをマージという)を進めており、このマージにより、イーサリアムのエネルギー消費量は99.5%削減可能な見込みである。

 PoW型からのシステム移行で、PoS型のブロックチェーンであるビーコンチェーンが利用される。

 PoW型、PoS型のいずれもブロックチェーンの種類である。暗号通貨におけるブロックチェーンとは、身近な例でいえばコンピュータにおけるOSのようなものと考えればよい。

 

 続いて、PoS型とはどんなものか。この仕組みを述べていく。

 従来のPoW型はマイナーが一斉に取引の検証のための計算に参加し、最も早く正解にたどりついたものが報酬を受け取るというものであった。

 

 一方で、PoS型ではどうなのか、みてみよう。

 PoS型におけるマイナー希望者は、まず一定額の暗号資産(今回の場合はイーサリアム)をネットワークに投じる(預けるといった方がよいかもしれない)。

 このネットワークに預けた暗号資産をステークという。ステークはマイニングに参加するための参加費のようなものであり、このアクションがマイナーになるための第一歩となる。

 なお、このステークは最低でも32イーサ必要であり、日本円にして約650万円近い水準である。

 こうして、ステークした人の中から、システム側がランダムにブロックを検証するためのマイナーを選ぶ。

 ここで、ステークしている量が多いほど検証の役割を得やすくなる。つまりマイナーとして選ばれる可能性が高い。

 選ばれたマイナーは、ブロックを検証した対価として報酬と手数料を暗号資産で受け取ることができる。

 PoW型がマイナーが一斉に検証速度を競い合うのに対し、PoS型は検証する人がシステム側からランダムに選ばれ、ラップトップパソコンでも参加可能である。

 したがってPoW型のような計算能力アップを狙うエネルギー消費量の増大を抑制できるという、これがPoS型の概要であり、エネルギー使用量を抑制できる仕組みである。

 

 では、PoS型ではどのようにセキュリティを担保するのか。当然エネルギー消費量を抑えるだけでなくセキュリティを担保する必要もある。改ざんなどを防止する仕組みはどんなものなのか。

 PoS型において、マイナーに選ばれた人が改ざんなどの不正をおかした場合、その人が預けたステークの一部あるいは全部は破壊(スラッシュ)される。

 そして、ブロックの検証が杜撰なものであれば更に罰金が課される可能性もある。

 マイニングへの参加費用を払い検証に参加して、報酬と手数料を受け取る。不正をおかしたら参加費用を没収された上に、罰金を課せられる可能性もある。

 まずこの罰則が抑止力になっている。

 

 更に、改ざんを試みる側の立場に立ってみる。

 改ざんするにはまず検証の役割を得る必要がある。かなりの高確率でその役割を得るには、全ステーク量の1/2以上はステークする必要があるだろう。

 イーサリアムにおいて全ステーク量の1/2をステークするためのコストは日本円にして3兆円をこえる。PoW型の場合には改ざんを行うために必要なマシンパワーを得るためのコストは約6900億円ほどだから、PoS型のシステムのもと改ざんを行うことは、PoW型より多くのコスト面でのリスクも抱えることになる。

 このシステム移行はよほどのことがない限り実行されるであろうから、その後の予想について述べてみたい。

 

 このPoS型へのマージによって、大規模な能力を有するコンピュータや電力契約が役立たずになるため既存のマイナーは大きなダメージを受けるとされている。

 既存のマイナーはマイナーはマージ以前のようにマイニングを続けるためにPoW型のイーサリアムへのフォークを考えるだろう。

 イーサリアムのエネルギー消費量は抑制されるだろうが、ビットコインはどうだろうか。PoW型によって長年セキュリティを守ってきた実績を考えれば、この流れに追随する可能性は低いだろう。