エルサたちはやっぱり寒い?

 最近、アマゾン・プライム・ビデオで映画を観た。

 フリーアナウンサーであり、女優もやっている田中みな実が主演する『ずっと独身でいるつもり?』である。

 この作品は、2021年に上映されたものであり、原作は、2015年に出版されたおかざき真里の同名のコミックである。さらにその原作コミックは、2016年に亡くなられた雨宮まみの同名のエッセイがもとになっている。

 結論からいうと、視聴した後に大変にもやもや感の残る作品であった。なぜもやもやするのか。その辺を考えてみたいと思う。

 ブログタイトルには『アナ雪~』と書いておきながら、別の映画を取り上げるのは気が引けるが、『アナ雪』にも触れるゆえ、まずは進めていこう。

 そして、批判めいた話になるのだが、映像自体はとても洗練されていて娯楽と捉え楽しく観るという点では基準を満たした映画だったのではないかと思う。

 まずは簡単にあらすじを述べる。めんどうなので手っ取り早く、映画の公式サイトを引用させてもらおう。

 10年前に執筆したエッセイから一躍有名ライターとなった本田まみ(田中みな実)36歳、独身。自立した女性の幸せの勝ちを赤裸々に綴り、読者の支持を得たが、それに継ぐヒット作を書けずにいる。仕事にやりがいを感じながらも目下迷走中のまみは、自分の年齢に対してことあるごとに周囲から「ずっと独身でいるつもり?」と心配されている。一方、まみが出演する配信番組をきっかけに交錯する女性たちーまみの書いたエッセイを支えに自立した生き方を貫く由紀乃(市川実和子)、"なんちゃってイクメン”の夫への小さな不満を抱えながらインスタ主婦を続ける彩佳(徳永えり)、パパ活女子として生計をたてつつも、若さを失うことに怯える美穂(松村沙友理)。それぞれ異なる生きづらさを抱える4人が踏み出した小さな一歩とは?

 という感じだ。公式サイトの引用なので当たり前だが、そのままの映画といえるだろう。

 あらすじにもあるように、この作品には主要な4人の女性が登場する。主人公のまみ、由紀乃、彩佳、そして美穂だ。

 そして、各々の人物を更に掘り下げた形で取り上げると次のようになる。

 まみは、ライターとして名声があり人気配信番組にコメンテーターとして出演、三軒茶屋に中古ながらマンションを購入し、商社に勤務するイケメンの年下彼氏がいる。

 由紀乃は、どんな仕事をしているのか、作中で明確には描かれないが、まみと同じ三軒茶屋のマンションを購入し住んでいることから、しっかりとしたキャリアを持っている女性と思われる。同年代(少し年下?)と思しき、長年付き合った彼氏と最近別れてしまった。

 彩佳は、夫と子供がいるそこそこ裕福そうな(決して貧しそうではない)専業主婦。マイホームをもち、キラキラインスタ主婦として多くのフォロワーの支持を集めている。

 美穂は若さと美貌でギャラ飲みやら、パパ活やらで生計を立てている。

 

 上ではかなり恣意的な取り上げ方をしているが、この登場人物いずれにも共通するのは、どの女もなにかを手に入れている女たちであるという点である。

 そして何かを手に入れた上で、不安を感じ、不満を表明しているという点である。

 彼女らが感じている不安と、表明している不満とは何か。

 まみは、最初のヒット作に並ぶヒットに恵まれないこと、周囲からの結婚に対するプレッシャー、彼氏を含めた自らの仕事に対する無理解、女という立場ゆえの抑圧である。

 由紀乃は、彼氏と別れてしまった寂しさ、

 彩佳は、専業主婦の立場への夫の無理解ぶりと、そんな夫と今後の長い人生をともに送ることの不安、

 そして、美穂は若さと美貌という唯一の取り柄を失いつつあることに対する怯え、といったところであろうか。

 登場人物たちに思うことは、あなたたちがもっているものは本当に誰の力も借りることなく、自らの力だけで手にしたものなのですか、そして、だれしもが己の努力のみで持ちえることができるものなのですか、ということである。

 この映画には、少なくとも自らが持てる者であるがゆえに享受できた幸福とか、快楽について目を向けられず、つまり価値を認められずに逆に自らに足りないものに対する不満と不安ばかりが描かれているように見える。

 手に入れる過程でのもちろん努力はあるのだろうし、女性ゆえの苦労もあったのかもしれない。それがないとは言わない。

 この映画にもやもやする理由が少しわかった気がする。

 この映画の登場人物たちは、基本的に他者に対する感謝や敬意がなく、全てを自らの力で手に入れたのだという全能感をもっている反面、しいたげられているという被害者意識にまみれた自己がむきだしになっている、自己愛の垂れ流しの物語だからである。

 他者にコミック版には顕著に地元を見下す表現が出てくる。それはまみが彼氏(コミック版では商社マンではなく、もっと金のないタイプ)を実家の両親に紹介するために里帰りした時のことだ。

 仕出し弁当屋さんの弁当を囲みながら、まみは思う。

 「この天ぷら、砂の味がする。やっぱり田舎の安い仕出し弁当屋さんはだめだなぁ。」と。

 故郷というものを捨てているし、これをごちそうと思っている親世代ばかにしている。

 こういった、他者に対する想像力を欠いた視点でのひとり語りが気持ち悪く感じるのだ。

 

 ディズニー映画『アナと雪の女王』で、雪の女王であるエルサが「少しも寒くないわ!」と歌ってから10年。ここに登場する女性たちは10年ほどまえに「少しも寒くないわ!」と宣言したエルサたちである。しかし10年がたち、やはり一人は寒かったとのたまうエルサたちでもある。

 映画のラスト近くに専業主婦であるまみの母がこう言う。「結婚しても一人で生きていく覚悟がないとだめ。」と。これは、現代を生きる私たちが心得ておくべき姿勢であると思うが、

 こういったことをあえて映画の台詞のなかで取り上げなければならないほど、この意識が世の女性たちには浸透していないのではないかと、感じた。完全に男女が平等に扱われる社会はまだ遠いのかもしれない。