レシピはみてもつまらない。塗り絵してるようなもん。

 「レシピはみてもつまらない。塗り絵してるようなもん。」

 料理研究家土井善晴先生はそう言った。

 43歳独身男性、目下一人暮らし継続中の私は、最近よく自炊をしている。

 一応ライフハッカーの端くれを自認し、生活改善を一種の楽しみとする私は、世のビジネス系インフルエンサーが言うような、己の時間単価を考え、時間対効果の低い行動はしない、と意見も理解し、実践しているつもりである。

 そんなインフルエンサーが言う、己の時間単価を大事にする、の観点から言えば、自炊というものは時間対効果の低い、避けるべきものであるそうだ。その分、仕事や勉強にあてて収入アップを図るべきであるよ、というのが彼らの主張であり、この主張にうなずくべきところは確かに多い。自炊というのは確かにめんどくさい。

 そんな、私が自炊にいそしむのはひとえに金銭の節約のためである。

 ライフハッカーとして時間効果と金銭の節約という相反する欲求に応えるためにどうするか。

 その答えが、①短時間で作れるものをメニューとすること、②メニューを一種類に限定し、短縮化できること、である。

 さらにいえば味も美味しい方がうれしい、体にいいものはなおうれしい。

 私が作っているのはトマトスープである。

 土井先生は、前述の通りレシピというものを否定されているが、私はここにトマトスープのレシピを開帳いたしたく思う。写真はない。

 

 まず、雪平鍋を用意する。一人暮らしの一食分であればこれでも十分だ。

 鍋をコンロにかけ、オリーブオイルを熱し、チューブタイプの生にんにくを入れる。思うよりも多めに入れてよいと思う。

 スライスしたにんにくの方が雰囲気はでるのだけど、未だかつて買ったにんにくを一房たりとも使い切れた試しがないので、ここはチューブで代用。

 火が強すぎるとにんにくがはねるので弱火でじっくり、がコツであろう。

 にんにくとオリーブオイルが十分に熱せられたら(にんにくが少しはねるが、鍋のフチを超えない程度に)、キューブ型のコンソメスープの素(味の素)1個と水200ccを入れる。

 火加減を中火にし、ここから具材を切って入れていく。まずは入れるのはにんじんを1/2本、やや太めの短冊切りにする。にんじんは火が通りにくく、芯の残ったにんじんが口に入るととても悲しい気持ちになるので、こいつにはまず先に火を通しておきたい。やったことはないけれど、先にレンチンしておくといい感じになるかもしれない。

 続いてじゃがいも。1個を乱切りにして入れる。型崩れしないよう角を落とす一派もあるようだが、角を落とす時間はライフハッカーとして無駄だと思うのでやらない。それに型崩れしたじゃがいもだって嫌いじゃない。むしろ好き。

 ここでメインの鶏もも肉とソーセージ。鶏もも肉は角切りを2個か、3個、ソーセージは2本半入れる。ソーセージは火が通りやすいように縦に切れ目を入れた上で、半分、やや斜めにカットする。

 次は、ミニトマト。切り込みを入れた5個ぐらいを入れる。ちょっとの量でも味はしっかりとトマトになる。トマトの支配力はすごい。怖い。

 しお、こしょうを適当に入れて味をととのえる。この、味をととのえる、という概念がいまだにピンときていないのだけれど、しお、こしょうを入れると確かに美味しくなる気がする。そういうことなのだろう。

 最後にざく切りにしたキャベツを入れる。葉っぱの枚数でいうと3枚くらいだろうか。時短のためにも味のためにも芯はとっておくこと。

 キャベツの前にブロッコリーやしめじを入れたりと、その時々の冷蔵庫の残りで違うのだけれど、そのへんは好みでいいだろう。

 ここまで約10分。あらためて塩、こしょうを入れて仕上がりを待つ。最後に塩とこしょうをいれると薄味すぎず、濃い味すぎずのいい感じになる。

 この段階で鍋は、かなりぐつぐつといっている。中火のままだと吹いてしまう可能性もあるので吹いてしまいそうだったら火加減を調整してほしい。中身を少しかきまぜるのもよい。

 ここからは仕上がりを待つばかり。仕上がりまでは5分程度、もうすぐである。その間にどうするか。腕立て伏せでもしていればよろしい。洗濯物を取り込むのもよいだろう。私はそうしている。

 これでトマトスープの完成である。味についての特段の言及はいらないだろう。たぶん想像通りの味である。そして、ここまで書いて思った。何の変哲もないメニューであると。

 しかし、自炊をして初めて感じた、トマトの支配力の強さ、にんじんの意外なたくましさ、メインにもなり、そしてサブとして味を下支えし、さらに洋風っぽさの演出もしてしまう、ソーセージのユーティリティ性だとか、メインと言いつつ鶏ももの存在感の乏しさとかというものを。

 各々の食材が主張しつつ、引き立てつつ1つのハーモニーを奏でるのが料理であり、自炊の経験は、料理を味わう上での解像度を間違いなく上げてくれた。

 そして、実は時間対効果もなかなか悪くないのではないかとも思っている。コンビニで何にしようか、店内をうろつく時間、UberEatsや、お店でメニューを選びそして出来上がりを待つ時間、自炊をするよりも思いがけず時間を使っていると思うし、日々の再現性にも乏しい。ライフハック的にも節約的にも自炊は優れたソリューションなのではないかと感じている。いかに飽きずに続けられるかが課題だが。

 自炊は実は時間を節約しつつ、お金も儲かる(=節約になる)。

 今晩のお食事にトマトスープはいかがでしょうか。