コンビニエンスストアとの思い出

 私がはじめてコンビニエンスストアというものに入ったのは、たぶん17歳の時、それは1997年頃のことだと記憶している。

 その時に入ったのは、ヤマザキデイリーストアか、今は亡きホットスパーか、あるいは これも今は亡きサンクスのどれかだったとは思うが、いかんせん20数年前のことゆえ、すっかり忘れてしまった。

 いまや毎日のように利用するコンビニエンスストアに、21世紀を目前に控えてもいったことがなかったというのは思い返しても衝撃である。

 私が生まれ育ったのは山形県鶴岡市というところだ。鶴岡駅で特急列車を降り、駅前のややさびれて、シャッター街同然となった商店街を抜けるとあっという間に視界一杯に田園風景、遠くに出羽の山々が広がる、日本の原風景をイメージさせる、なんというか、一言でいうと田舎である。

 私はずいぶん前に故郷を離れ、今は大阪に暮らす身だけれど、まだ地元に住んでいる家族の話によれば、鶴岡はもともと農業の盛んな地域に加え、日本海から新鮮な魚介類が水揚げされるなど、食材だけは豊富であるからして、最近は「食の都」などと銘打って、いい感じにブランディングができているそうだ。全国の名のあるシェフ達の間でも 「知る人ぞ知る」、理想郷のような扱いを受けているらしい、知らんけど。

 という感じで自然ばかりの大層田舎であるからして、コンビニなるものも子供の頃にはなかったような気がする。

 冒頭にあげた、ヤマザキデイリーストアとか、ホットスパーとかが16歳くらいのときに国道沿いにポツポツできてきているなぁ、でも何だろうあれ、といった感じでよくわからん、己には関係ないもののようにとらえていた。

 コンビニがなくても普通に生活し、消費活動が成り立っていた時代というものがほんの少し前まで当たり前のようにあったのだ。

 日本のコンビニチェーンの最大手といえばセブンイレブンだけれど、ネット検索してみると鶴岡市に初めて出店したのは、2000年11月のことだそうだ。セブンイレブンが日本で初めて出店したのは、水産仲卸市場で有名になった豊洲で、これが1974年のことであるから、日本1号店に遅れること、なんと26年後のことである。

 私は、1999年に20歳で上京し最初の職場が豊洲にあったから、初めて入ったセブンイレブンはひょっとすると第1号店であったかもしれない。これも20年以上前のことであるから、もはやどう振り返っても記憶にはない。1号店の内装、外装は普通に小綺麗だったから1974年から何度となく改装を繰り返していたのだろう。普通の印象であった。

 前述のプレスリリースを更に読み進めると、山形自動車道の全面開通に伴い、とある。一斉配送を可能とするにはこのようなインフラの充実が不可欠だったのだろう。この一点をみてもセブンイレブンマーケティング戦略の確かさの一端を感じることができる。

(2000年のセブンイレブン初出店は全国的にみても類をみないくらいの遅さ、と思っていたが、秋田県に初出店したのは2012年のことらしい。びっくり。)

 上京して以降、盆暮れに地元に帰省するたびに、セブンイレブン(とファミリーマート)が、ヤマザキデイリーストアや、ホットスパーや、サンクスに取ってかわり、どんどん増えていったという印象である。ヤマザキデイリーストアがなくなっていくのを間のあたりにするたび、我が青春が失われていくような思いがしたものである。

 また、私のいとこは地元に密着した酒屋の店主であったが、多角経営の一環(というか、生活的に苦しかったのかもしれない)として海水浴場近くでサンクスのフランチャイズをやっていて、物珍しさからか、一時期は景気のいい話も聞いたものだけど、間もなく眼の前にできたセブンイレブンに淘汰されてしまったのだろう、店をたたむことになってしまった。

 店をやっていた当時、帰省した時には売れ残りのジュースとかパンとか、もらっては私はとても喜んでいた。しかしながら、コンビニのフランチャイズは本部の権限が強いと聞くし、セブンイレブンに押される中で、いとこは大変な苦労を抱えながらやっていたのだろう、そんな苦労を全く見せることのなかったいとこも、今はソムリエ(正しくはコンセイエ)として活躍しているらしい。結婚もし、何はともあれ無事に、幸せに生きているようでありよかった、と思う。

 このように私にとっては愛憎あいまみれた、アンビバレントな感情を持っているセブンイレブンなのだけど、やはりコンビニエンスストアといえばセブンイレブン、であろう。

 どこでもいい、コンビニを探している時に見つけたのがセブンイレブンであった時の安心感はなんであろうか。

 この安心感は、他の大手3社のローソン、ファミリーマートにはないもので、理由を考えてみた。ばかばかしい結論のようだが、ひょっとすると店舗のデザインに使われる暖色系の赤色の使い方にあるのではないか、と感じる。赤はローソンもファミリーマートも使っていないし。

 そんなセブンイレブンは、他大手にさきがけてセブンプレミアムというやや高級志向のプライベートブランドを提供している。最近、そのマカダミアナッツクッキーを買ってみた。砂糖の甘味は抑えつつも、バターのコクは引き立っていてよくできた一品だと思う。

(ただ、このマカダミアナッツクッキー、1袋に5枚入りなのだが、袋の開け口に対して平行に5枚が並んでいる。これによって1枚ずつ取り出すことができない。そんなにいっぺんには食べないのだから、開け口に直交させ、一枚ずつ取り出せるようにした方がよいのではないか、とは思う。)少し批判的なことを申し上げたが、やがて改善し提供してくれるのだろう、その自己変革力はセブンイレブンの強みであるような印象を受ける。

 とまぁ、こんな感じで最後は、セブンイレブンの話一辺倒になってしまったけれど、セブンイレブンを中心とするコンビニに、私の人生をクロスオーバーさせて振り返ってみた。

 皆さんにとっての、コンビニの思い出って何ですか。